脳科学の本をいろいろ読んだので、まとめて紹介してみる。
まずは記憶についての本から。池谷裕二のブルーバックス本。2001年出版なのでちょっと古いか。
★★★★☆
「歳をとると記憶力が悪くなる」「歳をとると物忘れが激しくなる」
というのは良く聞かれるフレーズだ。
しかし「それは誤解」と著者は言う。
確かに歳をとると、神経細胞の総数は減っていく。
しかしシナプスの数は逆に増加していくというのだ。
このことは、歳をとると記憶容量は大きくなることを示している。
ただ、年齢によって得意とする記憶の種類が変化するのだ。
若いうちは、脳は丸暗記のような記憶に適している。
それが歳をとるにつれ、丸暗記の能力は下がるが、
その代わりに論理だった記憶能力(エピソード記憶)が発達していく。
つまり年齢によって得意とする記憶の種類が変わるだけなのだ。
従って、歳に応じた記憶の仕方をすることが重要だということになる。
これだけでもかなり興味をそそられるのが、他に眠りや夢に関する記述もあり、興味深い。全体を通じては、まとめるのがうまく文章もわかりやすい。
記憶は誰の生活にも密接に関わり、避けることはできない。
脳についての知識は、知らないと損だと思う。★4つ。
次も同じ池谷裕二による、今度は対談本。
★★★★☆
池谷裕二と糸井重里の対談本。サラッと読める。
脳は誰もが持っている、それでいて何をするにも最も重要な器官である。
その性質や仕組みについて、もっと知りたいと思って読んでみた。
脳については
「一般に信じられているけれども、脳科学の研究結果とは異なっている」
というケースがままあるようだ。
例えば睡眠について。
普通の人は、「睡眠中は脳は休んでいる」と信じて疑わない。
しかし実際は、寝ているときも、脳は活発に活動しているそうな。
例えば、記憶の固定。
これは主に睡眠中に起こっているため、
暗記物はきちんと睡眠を取った方が成績が良くなるそうなのだ
(一夜漬けは記憶に残らないというのは本当らしいですよ)。
特にレム睡眠中は、その日にインプットした情報を高速に追体験して、
海馬が情報の要不要を取捨選択しているそうな。おもしろい。
こんな「へー」的なマメ知識や、日常生活に取り入れられそうな
ノウハウもてんこ盛りでおもしろかった。★4つ。
次も同じ池谷裕二の本。
★★★★☆
「海馬」に続いて脳科学系読み物。
今回は対談本ではなく、雑誌(VISA)での連載記事に補足を加えた形。
同著者の「海馬」とかぶる内容は多い。
サラッと読めるので、気になったところを軽く読むと良いだろう。
「海馬」同様、おもしろい知識満載だ。
個人的に印象に残ったのは以下の点。
- 海馬:司るのは記憶の保存ではなく創造、環境への適応力
- 脳細胞は減る一方ではない。新しい空間情報で脳細胞増える(旅とか)
- ストレスは自覚的なものと自覚できない身体的なものがあり、アルコールは前者を解放するが肝心の後者は変わらない!
- ストレスは、予測ができ、解消する手段を持っていることで軽減される
- 「やる気」を出すにはまず手を動かす(作業興奮)
- 睡眠は記憶を定着させるために必要。寝ないで勉強は暗記には不向き
次は夢について。
★★★★★
「脳は起きているときは働いていて、寝ているときは休んでいる」
という一般的な考えは、実は全く違っている。
寝ているとき、特に夢を見ているときの脳は、覚醒時とはモードが違うだけで、
実は活発に活動しているのだ。
驚いたことに、夢を見ている時の脳の状態は、
薬物などで幻覚を見ている精神錯乱状態の患者と「全く同じ」特徴を示すという。
違いは、起きているときにもイレギュラーに発生するか(精神錯乱)、
あるいは寝ているときに規則的に現れるか(正常な夢)だけだ。
これらは「似ている」のではなく、脳は「同じ」状態である・・・。
というような、脳と心と睡眠についての説明が、
睡眠に関する研究で長年第一人者であり続ける著者により、
脳科学の研究成果を踏まえつつも、わかりやすく述べられている。
睡眠時に脳はどう活動しているのか?
なぜ夢は覚えていられないのか?
なぜ夢は非現実的な設定なのに、その不自然さに気づかないのか?
読後はこのような疑問に答えが得られ、睡眠について理解が深まるはず。
とてもおもしろかったので★5つ!オススメ。
次も夢と脳について、もう少し広い内容にわたる本。
★★★★★
脳科学の歴史と現在に至る流れを、ジャーナリストである著者が研究者たちを取材し、まとめた本。
研究者が書いた本ではないので、一つの立場からの見方だけではなく、
複数の考え方について紹介されており(前に紹介した「夢に迷う脳」の内容も含まれている)、
意見の対立についても書かれている。
例えば、古典的なフロイト心理学派の夢分析と、精神医学からの夢の見方との対立など。
トピックとしては
- 夢が脳のどこから発生しているか
- 夢の持つ機能
- 明晰夢(「これは夢だ」とわかっている夢)
など。特に夢の機能については一読の価値あり。
睡眠が、記憶の形成や学習に重要な役割を果たすのは広く知られている。
これは人間だけでなく動物にも当てはまるらしい。
例えば、鳥は眠っているときにも歌を歌い(脳の活性で測定)、
それによって上達しているそうだ。
人間も、音楽家やスポーツ選手は、練習の1,2日後にパフォーマンスが向上するが、
これは睡眠にが関わっているらしい。
夢は現実の復習やリハーサルでもあるのだ。
睡眠が大事だというのは誰もがわかってはいるだろう。
この本を読むと、なぜ大事なのか理解が深まり、また興味もわく。
夢や睡眠についての本の中でも、内容も網羅的でかつ読みやすい。
とてもおもしろかったので★5つ!
次は脳の機能について。
- 社会化した脳
-
- 発売元: エクスナレッジ
- 価格: ¥ 1,575
- 発売日: 2007/10
★★★☆☆
脳には、社会的な能力を司る、特定の部位があるのだという。
例えば、危険を察知する部位、人の表情を読み取る部位、
信頼できるかどうかを判断する部位、人の視線を読み取る部位、などなど・・・
こういった部位が損傷を受けた人は、これらの行動/判断がうまくできなくなってしまう。
fMRIでの脳の活性の観察などから、こういったことが明らかになってきているとのこと。
それでは、これらの部位の働きを効率良く調整、あるいはトレーニングする方法がわかれば、
社会的なスキルの改善への効果的な対策となる・・・のかな?★3つ。
次は脳神経外科医の著者による、脳の状態を改善する習慣の紹介。
★★★★☆
なんとなく頭がぼんやりしている・・・
集中力や思考力が落ちてきているように感じる・・・
そんな状態を改善するのは習慣の改善である、
と脳神経外科医の著者は語る。
本書では、IT化により酷使される現代人の脳を改善する、
「時間的にも経済的にも負担にならない」脳に良い15の習慣が
紹介されている。
以下、内容のピックアップ。
- 毎日自分を小さく律することが、大きな困難にも負けない耐性を育てる
→前頭葉の体力をつける
- 夜の勉強は中途半端にやれ
→寝ている間に情報が整理される
- 時間の制約は判断を効率化させる
→自分で締め切りを作る
- 一日の行動予定表を書く
- 問題解決に至るプロセスを書く
書くことで脳内で組み立てようとしている情報を視覚化するのは、
前頭葉の仕事を助けることになる
- 些末な選択・判断を効率化させるルールを持っておくと、脳の力を有効に使える
- 物の整理は思考の整理に通じている。忙しいときほど片付けを優先させよう
- 脳の健全な働きを保つには、目を動かして積極的に情報を取ることが必要
→一時間に一回は上下左右だけでなく遠くを眺める
- MRで脳の画像検査をする
うれしいことに、かなり実践していることが書かれていた。
お墨付きをもらえたような自信になった感がある。
気をつけようと思ったのが、目を動かすこと。
これは意識しないとできない。
しかし、メガネをかけていると焦点がある視野が狭まるので、
目を動かしにくくなると思う。
とはいえ、メガネをかけていると脳の働きが鈍くなる、
というような話は聞いたことがないので、あんまり関係ない?
日常の習慣を変えるべき、という考え方は同意。
そういう意味ではlifehack本とも言える。
目次も章毎のまとめもあり、内容を把握しやすく読みやすい本だった。
★4つ。
次は再び池谷氏による2008年現在最新の脳研究の紹介+グチ。
- ゆらぐ脳
-
- 発売元: 文藝春秋
- 価格: ¥ 1,300
- 発売日: 2008/08/07
★★★★☆
最先端の脳研究と池谷氏のグチ
最先端の脳の研究内容の紹介と共に、池谷氏の独創的な脳研究へスタンスが
かいま見られる。
そのスタンスは、脳研究の主流である分子生物学的な考え方から離れる。
「仮説の検証」というからも一歩距離を置き、
意図せずに得られる「偶然」の結果を、意図的に起こしやすくしている。
- 目的を明確に定めたら分からなくなることも多いのではないのか
- ともかく何が起こるか分からないから、いろいろ試してみなければ
- 他分野の発表にこそヒントが転がっていまる
- 私のモットーは「科学的な論理を詰める」よりも
「好奇心」を先に走らせること
他にも、一般に信じられている学説が実は覆されているというトリビアも。
- 男女の一日に使用する単語数は女性が3倍多い、わけではない
- 脳梁の太さは女性の方が太い、わけではない
脳梁の話は思い切り信じてました。
池谷氏の著書は昔のものから読んでいるが、Scienceの、
しかもarticle(すごいやつ)で論文が掲載されたりと、
研究者として着実にステップアップしているようだ。
思考も徐々に変化しているのが読み取れ、過去の著作を読んでいる
人にとってはおもしろいところだろう。
そうでない人にとっては、脳と科学について軽く読める本
(本人は「グチを集めた」と言っている)。★3つ寄りの4つ。
次は記憶力にフォーカスした内容。
★★★★☆
昔は覚えてられたことが覚えられなくなってきた・・・
よく知っている人の名前をど忘れする・・・
何をしにきたのか忘れてしまう・・・
そんな悩みを感じ始めたジャーナリストである著者が、
薬品、サプリメント、トレーニングなどなど、
記憶力を取り戻せる可能性の数々に体当たりチャレンジした様子を描いた本。
記憶が落ちてくるといっても、正常な範囲からアルツハイマー、
脳の外傷まで様々なパターンがある。
著者は、自身がアルツハイマーかも、とおびえながらも、MRIなど数々の検査を受けたり、
複数の医者による脳の機能テストを受けたりしている。
幸いアルツハイマーではなかったものの、別の問題が生じていることが発見した。
そして、数々の体当たりチャレンジの結果、ある程度の効果を得ることはできたようだ。
著者は脳科学の専門家ではなくジャーナリストであるため、一般の人にも楽しめる内容になっている。
この点は「脳は眠らない」と共通している。
また、「物忘れが増えてきて心配」という普遍性のあるトピックであるため、
多くの人が興味深く読めるだろう。
おもしろいだけでなく、実用的でもある。★4つ。
ということで、記憶、夢、脳の機能などについて書かれた本をまとめてみた。
そもそもは「睡眠時間を短くすることはできないか?」と思って調べ始めたのだが、読んでみた感触としては
「必要な睡眠時間はは遺伝で決まってるっぽい」
「むしろ睡眠は記憶の定着に重要。ちゃんと寝ろ」
という感じだった。残念。
その代わりに、脳の働きについてはマメ知識をいっぱい仕込むことができて大満足。
特に夢と睡眠についての2冊はとてもおもしろかった。
今後も関連の本も読んだら、適宜追加していこうと思う。
もし他に良い本があったら、紹介は大歓迎です。
その他の書評などはこちら。
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