「知識・教養」タグアーカイブ

感想メモ:アフォーダンス入門——知性はどこに生まれるか

★★★☆☆

 「地面」という単語は物質名ではない。その上に立ったり、物を支えることができる機能を持つ物体や場所を、こう称している。

 このような考え方を一歩進め、主体を「我々」ではなく「物」に置き、「物」がそういった様々な用途を持つ(アフォーダンスがある)、という考え方をするのがアフォーダンスという概念の特徴だ。この考え方のポイントは、「意味」は我々が作り出しているのではなく、物に属すると捉えていることである。我々は見つけ出すだけでいいのだ。

 私がここから連想したことがいくつかある。一つは、「アイデアのヒント」における、「アイデアはそこにたくさんあり、見つけられるのを待っている」という考え方だ。アフォーダンスの考え方に当てはめれば、我々の身の回りの全てのものは、アイデアのアフォーダンスに満ちているということになる。我々は見つけるだけでいいのだ。
(参考:感想メモ:アイデアのヒント (うむらうす)

 もう一つは、UIは触れる人が誰でも同じ「意味」を見出せるようなものが、本来のUIなのだろうということだ。説明書を見なくても、どこをどうするのか直感的にわかる。これがUIの理想だろう。


関連エントリー:

その他の書評などはこちら。
Socialtunes – haru

感想メモ:したたかな生命

したたかな生命
したたかな生命
  • 発売元: ダイヤモンド社
  • 価格: ¥ 1,680
  • 発売日: 2007/11/16

★★★★☆

 生命の持つロバストネス(頑丈さ)には、知れば知るほど感心させられる。この生命が進化の末に獲得してきたロバストネスの仕組みについて、それを実際に技術として実用化した例を交えながら説明されている。

 内容は下のようなもの。

  • システム制御方法:netative/positive feedback, feedforward
  • 冗長性、多様性、モジュール構造、デカップリング
  • ロバストネスのトレードオフ

 長年の進化の果てに獲得された仕組みだけに、感心させられる例が多かった。

 他に、生命の仕組みを技術として用いている例を紹介している本としては、赤池学氏の「自然に学ぶものづくり」「昆虫力」などがある。★4つ。


その他の書評などはこちら。
Socialtunes – haru

感想メモ:虚妄の成果主義

虚妄の成果主義—日本型年功制復活のススメ
虚妄の成果主義—日本型年功制復活のススメ
  • 発売元: 日経BP社
  • 価格: ¥ 1,680
  • 発売日: 2004/01

★★★★☆

かなり旬は過ぎた感があるが、一応。

著者は高橋伸夫、東大経済学部教授。
バブル前後を含め、数十年経済学界に身を置いてきた著者の主張は簡潔だ。

「人は金で動くのではなく、金銭を仕事の動機付けにするのは間違いである。
『お金は年功主義で保証し、仕事で報いる』という日本型年功主義を見直そう」

というもの。

このことを示す上で非常に興味深かったのは、ある実験例で、
被験者にパズルを4セット解かせるというもの。

2セット終わった所で自由時間を入れるのだが、
休憩時までに解いた数に対して報償を支払う場合(A)

報酬を支払わない場合(B)
で、自由時間の過ごし方に差が見られるというのである。
(ちなみに休憩時間は実験者は部屋から出て行き、周りに人はいない)

差というのは、
「片方が自由時間にパズルを解かず、休憩を取る割合が多い」
というのだが、
それは、休憩が多いのは報酬が支払われた(A)か?
と思うとそうではなく、なんと(B)の方なのである。

(A)の場合は「報酬のためにパズルを解く」事になるのに対し、
(B)の場合は「パズルを解くこと自体が楽しい」状態になるからなのだろう。
これは誰しも経験がある、
「同じことでもやらされるとたのしくなくなる」
というやつだろう。

人が最高のパフォーマンスを発揮するのは、
お金のためにがんばっているという状態ではなく、
「そのこと自体が好きであるため、いくらやっても苦にならない」
という状態なのだろう。

成果主義ではこういう状態になることの助けにならず、
むしろ年功制で生活に対する保障をした上で、
仕事の内容で報いる日本型年功主義の利点を
再確認することが必要なのだという。

金銭が全くモチベーションになることはない、
と言っているわけではないが、
弊害の方が多いですからやめた方がいいですね、という話だ。

人のパフォーマンスを上げる「動機付け」についての理解が深まる上、
日本型経営についても興味深い、良著でした。

日本で導入された成果主義は、成果主義の皮をかぶった
人件費削減であることが多いので、そこを切り分けてから
議論する必要があるような気もするが。

ちなみに2008年6月の著者のインタビューでは

2004年に出版した『虚妄の成果主義』(日経BP)が思いもよらずベストセラーになったことで成果主義に関する取材をいまだに受けますが、少々辟易しています。経営学者である私の専門は経営組織論や意思決定論で、人事労務問題が専門ではありませんから。もう成果主義ではなくて、専門の企業経営について聞いてくださいと言いたくなります。

From: 「成果主義は失敗だった」と企業は明言せよ:NBonline(日経ビジネス オンライン)

と言ってる。こういう本を出したのだから
しょうがないと思うのだが…
オススメ度は★4つです。
知っておいて損はないです。

関連:


その他の書評などはこちら。
Socialtunes – haru

感想メモ:宮本武蔵の『五輪書』が面白いほどわかる本

宮本武蔵の『五輪書』が面白いほどわかる本
  • 発売元: 中経出版
  • 価格: ¥ 1,050
  • 発売日: 2002/10

★★★☆☆

 「五輪書」って言ってみたいという勢いだけで読んでみた本。

 宮本武蔵「五輪書」の中から15編をピックアップし、架空のエピソードを通じてその意味する所の解説を行っている。

 原典は抽象的な部分もあり、様々な解釈が可能だろう。この本では、著者が信じる解釈を、具体的なエピソードを通じて(架空だが)描いているため、イメージを伴って内容を想像することができる。

 元の文章は膨大であり、150ページ程度の本書が語る部分はその極一部である。しかしながら、宮本武蔵の思想に触れてみるという目的には、適した本だと感じた。★3つ。


その他の書評などはこちら。
Socialtunes – haru

感想メモ: 光と物質のふしぎな理論—私の量子電磁力学

発売元: 岩波書店
価格: ¥ 1,050
発売日: 2007/06

posted with Socialtunes at 2008/06/01

 

★★★☆☆

QED(量子電磁力学)の内容を、ノーベル賞物理学者のリチャード・ファインマン教授が素人にもわかるように説明した講義の内容。こんな硬派な内容なので、量子力学に多少なりとも興味がある人以外には全くオススメできない。多少興味がある私でも、ファインマン図には興味が湧かず、途中からどうでも良くなった。

 とはいえ、へぇ〜な情報も色々と含まれていた。私の記憶に残ったのは以下の点。小学校で習うことは、近似であって正確ではなかったのだな、と。

  • 光は最短経路しか進まない、のではない!直進以外にも、考えられる全ての経路を進みうる(最短とそれに近い経路以外は互いにキャンセルされ、寄与が小さいだけ)
  • 鏡も、最短距離一点だけで反射するのではない!
  • 鏡を最短距離の部分だけを小さく残しても、反射する光は弱くなる!
    →他の部分も反射に寄与している
  • 二重スリットで「波束が収縮」する問題は、「粒子の存在確率は、最初の状態と最後の状態を正確に定義する必要がある」と考えると当たり前になる
  • 一枚目のスリットを通過した時点で測定を行えば、そこが「最初の状態」となるので、スリットを通る前に計算した存在確率とは「最初の状態」が異なるから

読み返してみると、やっぱり相当読者を選ぶようだ。

その他の書評などはこちら。
Socialtunes – haru

感想メモ:天皇の戦争責任

天皇の戦争責任
天皇の戦争責任
  • 発売元: 径書房
  • 発売日: 2000/11

★★★★☆

 かなり分厚い本なのだが、著者がいずれも賢い人たちなのでそれほど苦労せずに読めた。対談形式だけに、議論がかみ合っていなかったりして多少読みにくい部分もあったが。

 要点は以下のようなもの。

・今までのような「日本は悪かった=天皇に戦争責任がある=革新派」対「日本は正しかった=戦争責任はない=保守派」という二者択一では、そこから先に進むことはできない
・どちらの意見も極端すぎて、一般の人の感覚とは結びつかない
・戦争には仕方がない部分もあった。しかし悪い点もあった
・そういったところから一般的な共通認識を作り上げることで、日本がこれから国際社会を生き抜いていく土台が作られることになるのだろう

 今までなんとなく「考えておいたほうがいいんだろうな〜」と思いつつもそのまま過ごしてきた問題なので、こういう信頼を置ける人たちが書いているものがあるのは非常にありがたい。

 読み返す価値がある本。★4つ。