©2022『すずめの戸締まり』製作委員会
『すずめの戸締まり』が、2022年11月11日に公開された。
早速、公開初日の11/11に鑑賞した。
大きく心を揺さぶられる、すばらしい作品だった!
またやってくれたぜ、新海監督!
サントラと小説も買ったし、
冷静に考えられるようになったので、
感想と考察を書いていきたい。
好きな人と一緒にいたい。幸せになってほしい。 そんな気持ちを応援するメッセージは、 多くの人に伝わっていたはずである。 そうでなければ、興行収入250億円突破という結果は 成し得なかったことだろう。 その一方で、 「震災を利用している」 「震災をなかったことにしている」 というような批判もあった。 これらが新海監督の心に強く刺さったであろうこと、 そしてその批判に対する反動をベースに『天気の子』が 作られたことについては、以前こちらに書いた。 →[【ネタバレあり】『天気の子』深読み感想:『君の名は。』が『天気の子』に与えた呪縛 - うむらうす](https://www.umurausu.info/blog/archives/tenkinoko-fukayomi-1.html) #### 『天気の子』に込められたメッセージ 『天気の子』には、『君の名は。』への批判に対する反動が 根底に含まれていることは既に述べた。 『君の名は。』ではキラキラに描かれていた東京は、 『天気の子』ではバニラカーが走り、犯罪が描かれ、 「東京って怖ぇ〜」場所として描かれた。 『天気の子』の主人公の帆高は、 「青空よりも俺は陽菜がいい!天気なんか狂ったままでいいんだ!」 と東京を水没させた上で「僕たちはきっと、大丈夫だ」と言った。 つまり、**「美しく、正しい」ことを描くことの優先度は低かった**ように思えた。 確かに、『君の名は。』を 「批判してきた人がもっと批判するようなもの」には なったのかもしれないが、 **「異常気象が常態化している世界で生きていく世代には、 それを軽やかに乗り越えて向こう側に行ってほしい。」** という監督の思いがストレートに伝わるには、 ノイズが大きくなってしまったように思う。 (参考: 『天気の子』新海誠監督単独インタビュー 「僕たちの心は空につながっている」 - ウェザーニュース) #### 『すずめの戸締まり』に託されたメッセージ 『君の名は。』では「震災をなかったことにするのか」 『天気の子』では「セカイ系」などという批判もあり、 結果として新海監督は > 「言いたいことがうまく伝わらなかった」 と感じたそうだ。 しかしそこで手を緩めず、**『すずめの戸締まり』では ストレートに2011年の東日本大震災に踏み込んだ**。 これは非常に勇気がいる決断だったと思う。 タイムリープにより被害をなかったことにするのではなく、 地震による被害を未然に防ぐ戦いにすることで、 『君の名は。』への批判を乗り越えた。 東京上空で草太を要石として刺すことで、 世界を犠牲にすることもせず、 『天気の子』への批判を乗り越えた。 クライマックスのシーンでは、 **心ある人々と出会い、支えられ、成長した鈴芽自身が、 傷ついている子供の頃の自分自身を救う声をかけた**。 **「あのね、すずめ。今はどんなに悲しくてもね」** **「すずめはこの先、ちゃんと大きくなるの」** **「だから心配しないで。未来なんて怖くない!」** これまでの作品への批判に真摯に向かい合い、 このシーンを実現するために慎重に組み立てられた、 **「美しく、正しい」ことを描いた作品**だった。今回、奥寺先輩が瀧に"君もいつかちゃんと、幸せになりなさい"というセリフがあって、 ちょっと謎めいた言葉にも聞こえるかもしれないけれど、あれはお客さんに対する僕の気持ちでもあるんですよ...
誰かの幸せを願うような作品にできたらいいなと...
日常がいつかなくなってしまうかもしれない感覚って、みんな日に日に強く抱えるようになっていると思うんですよ。でも、あと少しだけでいいからこの状態を続けていたい。好きな人と一緒にいたい。幸せって、そういう切実な想いの中で初めて見いだせるものだとも思うんです。
「今度こそ、これなら、伝わりましたか?」 という新海監督の声が聞こえるようだ。 --- 2011年の東日本大震災では、 私自身も大きな衝撃を受けた。 当たり前と思っていた今日の命が、 実は当たり前ではないこと。 人の力の及ばない、理不尽な力があり、 それはいつどこで誰に牙を剥くのか、 誰にも分からないこと。 だとしたら、どう生きていくのか。 結局、大事な人と、その時その時を 一生懸命生きていくしかないのではないのか。 そんな風に考えるようになったのを思い出した。 私個人としては、**『すずめの戸締まり』は、 新海作品の中で最高の完成度を持つ、 まさに集大成と呼ぶにふさわしい作品だ**と感じた。 それでも。 「無神経」「傷ついた」「がっかりした」などと 言う人は出てくるだろう。 どんなに優れたメッセージであったとしても、 100万人中100万人が同意することなどあり得ないのだから。 新海監督は、『すずめの戸締まり』の公開後、 「どう受け止められるか不安で怖くて、よく眠れない」と 話していた。 観客の声を真摯に受け止め、できるだけ多くの人の声に 答えようと、正解を探し続けたのだろう。 とても誠実なスタンスだ。誠実すぎる、とも思える。 おそらく新海監督の次回作は、自然災害からは離れるだろう。 そのときに何を描いてくれるのか。とても楽しみだ。 願わくば、自身の描きたいことを優先してもらえたら、と思う。 ## その他諸々感じたこと もうちょっと続くのじゃ。 ### 音楽の方向性の転換 『すずめの戸締まり』でも、音楽には『君の名は。』『天気の子』で タッグを組んだRADWIMPSが再登板している。 そして、**音楽に関しても、『すずめの戸締まり』は 集大成と呼ぶにふさわしい完成度の高さ**だった。 『君の名は。』では、一般的なアニメ映画とは異なり 「夢灯籠」や「前前前世」などボーカル曲が多く採用され、 『天気の子』でもその形は踏襲された。 特に、**『君の名は。』のスパークルや、 『天気の子』のGrand Escapeで見せた、 緻密に設計された、圧倒的な歌と映像と融合体験**は、 その後の作品にも影響を与えた。 しかし**『すずめの戸締まり』では、ボーカル曲多様の方針は 踏襲されず、楽曲の構成が一変**している。 歌詞の乗った曲は、テーマソングの「すずめ feat.十明」と 「カナタハルカ」だけで、しかもどちらも歌詞の乗った歌は エンディングでしか流れない。 つまり、『すずめの戸締まり』では、 **『君の名は。』『天気の子』で効果が証明された この強力な武器を使わないという選択をしている**のだ! **効果があるとわかっている武器を使わない**。 これはなかなかできない、大きな決断だと思う。 「すずめ feat.十明」は、予告編でも歌詞付きで流れていたので、 てっきり作中の重要な場面、例えばクライマックスのシーンで 流れるのだろうと思っていた。 ところが。 鈴芽が子どものすずめと対話するクライマックスのシーンでも、歌は流れない。 しかしそれによって、このシーンの体験が損なわれているのかというと、 そんなことは全くない! むしろ、 **『君の名は。』のスパークルが流れる場面に勝るとも劣らない、 圧倒的な力で心を揺さぶる名シーン** となっている。 他のシーンでも「すずめ」のメロディーは使われていて、 メインテーマとして統一感を持って作品を支えている。 『すずめの戸締まり』では、RADWIMPSに加えて メタルギアソリッドシリーズや「攻殻機動隊 SAC_2045」の音楽を担当した 陣内一真(じんのうち かずま)氏が参加している。 どのような形で関与されているのだろうか、と思ったらこんな記事を見つけた。 →新海誠監督×野田洋次郎×陣内一真、『すずめの戸締まり』を彩る音楽を語り尽くす - THE FIRST TIMES「自分が自分を励ます。そのために設計して作った」。
新海監督はそう、力を込めた。
「すずめの戸締まり」の新海誠監督、神戸への思い「大災害を乗り越え、ごく普通の生活を送っている人たち」 | 総合 | 神戸新聞NEXT
サントラには、作中では流れなかった 「Tamaki」と「すずめの涙」の2曲も入っている。陣内さんの音楽作りが、劇場体験と呼べるようなものを映画に与えてくれました。信じられないくらいのご尽力、本当にありがとうございました!
— 新海誠 (@shinkaimakoto) October 22, 2022
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「Tamaki」は、環さんの鈴芽に対する胸の内が描かれている。
「すずめの涙」は、エンディングで流れてもおかしくない曲。
作中で使われなかった理由はわからないが、胸を温めてくれる曲だ。
興味がある方は、ぜひ聴いてみてほしい。
宮崎駿監督へのリスペクト
制作発表時のインタビューで新海監督は、
『すずめの戸締まり』は「魔女の宅急便」の影響を強く受けている
と語っていた。
→新海誠×上白石萌音×森七菜『すずめの戸締まり』製作発表会見の舞台裏~The First Door~ - YouTube
直接的には、芹澤カーでかかる「ルージュの伝言」で、
多くの人に自動的に『魔女の宅急便』を連想させる曲だ。
「旅立ちはこの曲」「猫もいるし」というセリフもあった。
話の構造としては、見知らぬ土地で、人の優しさに支えられ、
成長していく主人公という構図も『魔女の宅急便』を
感じる要素になるだろうか。
他にもいくつか、宮崎作品への言及が見られた
- Twitterに「リアル耳すま」
- ミミズは「もののけ姫」のデイダラボッチを連想させる
- 金色の糸も王蟲のアレを連想させる
考えすぎのところもあるかもしれないが、
随所に宮崎アニメへのリスペクトを感じた。
芹澤カーの選曲センス
「ルージュの伝言」に「夢の中へ」。
神木くん芹澤くん、大学生なのに
随分とシブい趣味してるなーと思っていたら。
小説を読むと、この選曲は、
環さんの年代に合わせた選曲なのだった。
ごめん、そのやさしさに気付いてあげられなかった...
狐憑き?
唯一、作中で理解できなかったのが、
サービスエリアで環さんが
鈴芽に厳しい言葉を浴びせるシーン。
サントラの曲名は「狐憑き」となっているし、
鈴芽の誰何の声に「サダイジン」と答えているので、
サダイジンが環さんに憑依して言わせたのだろう。
が、その動機がよくわからなかった。
直後に鈴芽を守るため?ダイジンがサダイジンに飛びかかるも、
逆に首根っこを咥えられ帰ってきた。
が、サダイジンを正気に戻すことには成功したようだ。
サダイジンは、何のために環にあのようなことを言わせたのだろうか?
考えてみたが、しっくりくる説明を思いつかなかった。
環と鈴芽の関係性の進展のために
必要なイベントであることは理解できるが、
できればもう少し説明が欲しかった。
また、「ダイジン」はTwitter民の命名だったはずなのに、
なぜもう一体の要石が「サダイジン」なのだろう?
神はTwitterもチェックしてるの?
とか細かいこが気になったりした。
鈴芽が三葉っぽい
『すずめの戸締まり』も、『君の名は。』のように
心を動かされた。
『君の名は。』のときに、なぜ感動したのかを考えたのがこちらの記事。
「君の名は。」はなぜ人を感動させるのか? - うむらうす
簡単に言うと、
共感が強いほどキャラクターへの感情移入が深くなり、感動が強くなる
という仮説だ。
そして鈴芽は、三葉と同じく共感しやすい特性を持っている。
素直、ひたむき、一生懸命 → 応援したくなる
バーで矢継ぎ早の指示にいっぱいいっぱいになって
「え〜〜〜〜!?」と言ってるところとか、
眉間に皺を寄せてスマホを連打しているところとかも、
三葉っぽいな、と思った。
その他気になった点、小ネタなど
- 鈴芽の部屋で、草太が片付ける本の中に「はつ恋」
- 鈴芽のお父さんが、瀧くんのお母さんくらい気配がない。草太のご両親も。どこ行ったの?
- 佐々木特異点
- 「すごいすごい(棒)」「そうだね(棒)」
- ついにヒロインの髪型が二つくくりじゃなくなった
- 足の裏の傷が痛そうで、シャワーの水が当たるときこっちもビクッとした
- 芹澤のタフな精神を見習いたい
- クライマックスのシーンに感動した人で、ヴァイオレット・エバーガーデン第10回未視聴の人は、観ると良いと思います
最後に
さて、長々と書いてきましたが、
結論として、『すずめの戸締まり』は、
『君の名は。』『天気の子』を踏まえての、
新海監督作品の集大成だと思います。
改めて、すばらしい作品でした。
ありがとうございます...!圧倒的感謝...!!
参考になったインタビュー記事やサイトを挙げておきます。
- 『すずめの戸締まり』新海誠監督インタビュー | アニメイトタイムズ
- 【ネタバレ】映画『すずめの戸締まり』感想と解説。新海誠が描く震災と村上春樹のあの短編 - 社会の独房から この感想結構好きです。
- 【インタビュー】新海誠監督がエンタメ映画に込めた覚悟 「すずめの戸締まり」で辿り着いた境地 : 映画ニュース - 映画.com
- 新海誠監督がついにやった! 11年向き合った集大成 「すずめの戸締まり」茶一郎レビュー | 映画スクエア
- 映画『すずめの戸締まり』で流れる曲全16曲をシーンごとに解説!
映画『すずめの戸締まり』完成披露イベント映像
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