最終更新 : 2018/6/1
少子化問題対策についてはいろいろな議論がありますが、
どうも前提が食い違ってることが多いようです。
そこで、前提となるデータを確認しながら
色々調べてみた内容をまとめ、
対策を考えてみました。
読んでくださった方の、理解の助けになれば幸いです。
合計特殊出生率の低下
合計特殊出生率
ごうけいとくしゅしゅっしょうりつ
total fertility rate
1人の女性が生涯に何人の子供を産むかを表す数値。 15~49歳の女性の年齢別出生率を合計したもの。 合計特殊出生率がおよそ 2.08のとき,人口は増加も減少もしない (人口置換水準) 。
日本の合計特殊出生率は丙午 (ひのえうま) の 1966年に 1.58を記録,翌 1967年 2.23に戻ったものの 1975年にまた 1.91にまで下がり,以後はゆるやかな低下を続けている。
合計特殊出生率(ごうけいとくしゅしゅっしょうりつ)とは - コトバンク
日本の合計特殊出生率は、H24年で1.41です。
この数字は人口置換水準の2.08よりも低いため、
人口がどんどん減っていくといくことになります。
少子化対策とは、この1.41という数字を
なんとか増やしたい、ということです。
それでは、
日本の合計特殊出生率の低下した原因は、
一体、何なのでしょうか?
婚外子と夫婦からの出生の割合
まず、日本の婚外子は2.2%(平成24年)なので、
日本の現在の少子化の主要因については、
夫婦からの出産の低下を考えれば良い
でしょう。
平成26年我が国の人口動態(政府統計)(PDF) p33
ちなみに2.2%という数字は、上の表にあるように、
諸外国に比べると相当低いです。
外国の数字を見る場合は、この点について考慮する必要があります。
夫婦からの出生率低下の原因は?
色々調べた結果、夫婦からの出生率低下の原因については、
以下の3つが挙げられていました。
- 結婚率の低下
- 晩婚化による出生率低下
- 夫婦の出産数の低下
以下、一つずつ見ていき、最後にまとめます。
1. 結婚率の低下
未婚率は急上昇している
第1-特-20図 生涯未婚率の推移(男女別) | 内閣府男女共同参画局
生涯未婚率、特に重要な女性の生涯未婚率は、
平成2年に5%程度、平成22年に10.6%と、
この20年で倍近くになっています。
特に、ここ5年での増加も大きいです。
「合計特殊出生率」=
「結婚する者の割合」×「結婚した夫婦の子供の数」
なので
「結婚する者の割合」
が低下したら、当然出生率も低下します。
従って、
未婚率の増加が出生率低下の要因の一つ
ではあるでしょう。
女性の未婚率は上昇傾向なので、
今後、未婚率が急ペースで上がらないようにすることが
大切であるように思えます。
対策としては、晩婚化の対策と共通しますので、
あとで触れます。
2. 晩婚化による出生率低下
晩婚化で出生率は低下する
第14回出生動向基本調査/国立社会保障・人口問題研究所
平均出生子ども数は、
妻の結婚年齢が30歳未満の場合1.9〜2.0程度
であるのに対し、
30〜34歳の場合は1.5、
35〜39歳の場合は1.16
と、格段に低くなっていきます。
従って、
晩婚化が出生率に与える影響は、
とても大きい
と言えます。
晩婚化については、結婚年齢が遅れることで、
見かけ上出生率が低下するという影響もありますが、
データを見る限り、
実際の出生率低下の影響の方が大きいと思われました。
以上から、
未婚率と晩婚化、特に晩婚化が
出生率に与える影響は非常に大きい
ということがわかりました。
それでは、晩婚化はどの程度進行しているのでしょうか?
晩婚化の進行
平成26年我が国の人口動態(政府統計)(PDF) , P32
上の図は、平成4年、平成14年、平成24年の男女の初婚年齢です。
初婚年齢20代の女性は減少し、
初婚年齢30代の女性は増加し、
結果として、
平成28年の女性の平均初婚年齢は29.4歳です。
昭和22年では夫26.1歳、妻22.9歳、
平成28年では夫31.1歳、妻29.4歳です。
平成28年は昭和22年に比べ、夫は5.0歳、妻は6.5歳上昇で、
夫・妻とも晩婚化が進んでいます。
平均出生子ども数が、
妻の結婚年齢が30歳未満の場合1.9〜2.0程度
30〜34歳の場合は1.5、
35〜39歳の場合は1.16
だったことを考えると、
平均初婚年齢は29.2歳では、
出生率が2を超えることは、
とても難しいように思われます。
ちなみに、出生率には地域差もあります。
都市部の出生率は低くなります。
→結果の概要|厚生労働省
東京都の女性の出生率は1.12です。
そして、都道府県別の初婚年齢を見てみると、
東京と神奈川だけ29歳を超えています。
東京は29.7歳で堂々の一位です。
晩婚化が出生率に強く影響を与えている、と言えるでしょう。
厚生労働省:都道府県別にみた夫・妻の平均初婚年齢の年次推移
3. 夫婦の出産数の低下
次に、出生する子どもの数が減少している理由を見てみます。
「結婚する者の割合」×「結婚した夫婦の子供の数」のうち、
「結婚した夫婦の子供の数」に当たります。
完結出生児数(夫婦の最終的な出生子ども数)はゆるやかに減少
第14回出生動向基本調査/国立社会保障・人口問題研究所
完結出生児数(夫婦の最終的な出生子ども数)は、
1972年〜2002年の30年間で、2.2とほぼ変わっていません。
しかし、2005年から減少が始まり、
2010年に初めて2を割って1.96となりました。
つまり、
- 結婚している夫婦は、平均2人子どもを作っている
- しかし、30年間変わっていなかった出生児数≒2.2が、
2005年から減り始めて、2010年には1.96となった
そこで、出生児数の内訳の変化を見てみます。
出生数3人以上が低下、出生数2人未満が増加
第14回出生動向基本調査/国立社会保障・人口問題研究所
出生児数3人以上が、
1997年:32.9%
2002年:34.4%
2005年:26.7%
2010年:21.6%
と、10年前から見て2/3程度に低下しています。
一方、出生児数2人未満(0人、1人)が、
1997年:13.5%
2002年:12.3%
2005年:17.3%
2010年:22.3%
と、10年前から見て1.6倍以上になっています。
出生児数2人が56%と半数以上を占めているので、
出生児数全体の変化としては、大きく現れていないものの、
ここ10年で急激に出生児数が変化している(下がっている)
と言えます。
なぜでしょうか?
理想子ども数は約2.5、予定子ども数は約2.1
「結婚と出産に関する全国調査」(2006) p36
理想的には、2.5人子どもが欲しい。
実際の所は、2.1人子どもを作る予定。
でも、現実に生まれた子どもの数は1.96人。
ということであるようです。
この「理想的な子ども人数」と「予定子ども人数」の
推移は下の表の通りになります。
「結婚と出産に関する全国調査」(2006) p36
2005年にやや減少していますが、
それほど大きく変化しているわけではありません。
「理想の子ども人数」と「予定子ども人数」の差は0.37人、
「予定子ども人数」と「実際の子ども人数」の差は0.15人。
0.37 > 0.15 なので、つまり、
1. 理想の人数の子どもを作れない(影響大)、
2. 子どもを作ろうとしているが作れない(影響小)、
という二つの理由があるようです。
なぜでしょうか?
1. 理想や予定の子ども人数に達しない
第1部 少子化対策の現状と課題について
「理想の人数の子どもを作れない理由」のトップは、
「お金がかかるから」が60%以上
で圧倒的です。
若い世代ほど割合が高く、
30代未満では80%以上、
30代でも70%以上
を占めます。
二番目の理由が、
「高年齢で生むのはいやだから」で約35%。
この理由は、当然のことながら、年齢と共に増加します。
35〜39歳では25%以上、
40歳以上では45%以上
となります。
2. 子どもを作ろうとしているが作れない
「予定の子ども人数」が「理想子ども人数」を
下回る理由を細かく見てみると、
「予定子ども人数」が2人以上の場合は、
「お金がかかるから」がトップなのですが、
「予定子ども人数」が0〜1人である理由は、
「欲しいのにできないから」がトップです。
ということで、出産の制約条件は、
「自分の生活を大切にしたいから」というような
ライフスタイルの話というよりも、
「お金がかかる」という経済的な理由、
(理想の子ども人数に達しない)
そして
「欲しいのにできない」という医学的な理由
(予定の子供人数に達しない)
が大きいようです。
出生率低下の要因まとめ
日本では夫婦以外からの子供の割合が低いので、
夫婦からの出生率低下の原因として、
以下の3つを見てきました。
1. 結婚率の低下
女性の生涯未婚率は、
平成2年に5%程度、平成22年に10.6%と、
この20年で倍近くになっています。
2. 晩婚化による出生率低下
平均出生子ども数は、
妻の結婚年齢が30歳未満の場合1.9〜2.0程度
30〜34歳の場合は1.5、
35〜39歳の場合は1.16
と、年齢と共に大きく下がります。
そして、女性の初婚年齢は上昇していて、
平成28年の女性の平均初婚年齢は29.4歳です。
3. 夫婦の出産数の低下
・結婚している夫婦は、平均2人子どもを作っている
・しかし、30年間変わっていなかった出生児数≒2.2が、
2005年から減り始めて、2010年には1.96となりました。
「理想の人数の子どもを作れない理由」
のトップは「お金がかかるから」が60%以上で圧倒的。
二番目の理由が「高年齢で生むのはいやだから」で約35%。
「予定子ども人数」が0〜1人である理由は、
「欲しいのにできないから」がトップ。
つまり、夫婦の出産数の低下には、
「お金がかかる」という経済的な理由、
「欲しいのにできない」という医学的な理由
があります。
少子化対策:どうすれば「実際の子ども人数」が増えるのか?
いかに結婚を促すか
ここまで、
- 結婚率の低下
- 晩婚化による出生率低下
- 夫婦の出産数の低下
という3つの要因を見てきました。
この理解を基に、
どうすれば「実際の子ども人数」が増えるのか?
という少子化対策を考えてみます。
1. 2. 結婚率の低下・晩婚化 の対策
この2つについては、同じ対策になるように思います。
つまり「いかに結婚を促すか」ということです。
それでは、<結婚しない理由>とは何なのでしょうか?
結婚しない理由とは?
平成 25 年版 厚生労働白書 図表 2-2-17
「独身にとどまっている理由」(p72,クリックで大きく表示します)
上の図表を見ると、
25歳までは「まだ早い」、
25歳からは「いい相手がいない」、
という理由が目立ちます。
晩婚化に歯止めをかけるには、
「いい相手がいない」を解消したいところです。
では、「いい相手」とは、どういう人なのでしょうか?
平成 25 年版 厚生労働白書 図表 2-2-34
「結婚相手の条件として考慮・重視する割合の推移」(p87,クリックで大きく表示します)
男性は、女性の性格と容姿を重視。
女性は、男性の性格と経済力を重視。
ということですね。わかりやすいです。
女性が結婚相手の男性に求める収入はというと、
600万ぐらいだそうです。
一方で、年収600万以上なのは、独身男性の3.5%。
この数字を真に受けると、
3.5%ぐらいの人しか結婚できなさそうです。
(参考:【第3回】"モテ"と"キャリア"の歴史その2:日経ビジネスオンライン)
しかし、急に96.5%の男性の収入がアップするとは
考えにくいので、これに対しては、
女性が経済力をつけるというのが、
一つの方向性であるように思います。
この場合、
女性が働く場合の育児体制のサポート、
残業前提の働き方や、男性の育児参加についての意識改革、
といった課題がもれなくついてきます。
長くなるので、この議論の詳細ついては入りませんが、
以下の小室さんの意見が、参考になるかと思います。
小室淑恵「人口構造から見るゲームチェンジの必要性」―人口ボーナス期から人口オーナス期へ | 日刊読むラジオ
もう一つの方向性は、
結婚の意思がある男女のマッチングの機会を設けることでしょうか。
例えば、結婚の意思がある未婚男女が
ランチを一緒にするというような、
マッチングシステムの仕組みなどが
あってもいいかもしれません。
AIによるマッチングシステムなども、
話題に出てきたりしますね。
夫婦の出産数の低下 の対策
夫婦の出産数低下には、
「お金がかかる」という経済的な理由、
「欲しいのにできない」という医学的な理由
という2つがありました。
「お金がかかる」への対策
「お金がかかる」という理由に対しては、
育児費用の補助が直接的な対策になるでしょう。
平成24年厚生労働白書 図表 5-6-6
「各国の家族関係社会支出の対 GDP 比の比較(2007 年)」(p129)
日本は、欧州諸国に比べて現金給付、現物給付を通じて家族政策全体の財政的な規模が 小さいことが指摘されており、家族関係社会支出の対 GDP 比をみると、フランスやス ウェーデンなどの欧州諸国と比べて 3 分の 1 程度となっている。日本は、GDPの割に家族関係の財政支出が少ない国です。
日本はGDPが大きいということもできますが、
家族関係の財政支出の多いフランス、イギリス、スウェーデンは出生率が高く
(それぞれ2.00、1.91、1.90)、
財政支出の少ない日本、イタリア、ドイツは出生率が低い
(それぞれ1.41、1.42、1.36)、
という相関はきっちりあるようです。
フランスは、冒頭でも挙げましたように、
婚外子が半数を超えています。
これは、婚外子も保障が得られるのも一因であるようです。
「欲しいのにできない」への対策
「欲しいのにできない」に対しては、
顕在化していない、潜在的な不妊である夫婦も、
相当数いるのではないかと思われます。
現状、不妊治療には保険が適用されないので、
数十万円から百万円かかることも珍しくありません。
不妊治療の保険適用、あるいは助成金を設けることで、
予定子ども人数が0〜1人の夫婦の
予定人数を増やすことに繋がるように思います。
国が検討している少子化対策について興味がある人は、
少子化社会対策白書を一読してみてください。
→平成25年版少子化社会対策白書 全文(PDF形式)
<追記>
不妊治療の保険適用について、長いですが引用します。
<一般不妊治療>
・タイミング法:2,000~2万円(保険適用)
・ホルモン療法:2,000~2万円(保険適用)
・人工授精 :1~5万円(保険適用外)
<高度生殖医療>
・体外受精 :20~70万円(保険適用外)
・顕微授精 :30~50万円(保険適用外)
・凍結胚移植:13万円前後(保険適用外)
(中略)
医師から、特定の治療以外での妊娠が不可能と認められた場合、
国の「特定治療支援事業」の助成金がもらえることがあります。
これは、保険適用外の「体外受精」と「顕微授精」を行った方が対象となります。
助成金は1回15万円で年間2回まで通算5年、所得が夫婦合算で730万円以下という所得制限もあります。
この特定不妊治療に対する国の助成金ですが、
平成16年には1万4,000件だったものが、
平成24年度には約13万件に達しています。
(中略)
不妊治療に関する国の助成金「特定不妊治療費助成制度」の内容が
平成28年4月1日から変わりました。
主な見直し内容は、
・妻の年齢が43歳以上の場合は助成の対象外になった
・初めて助成を受ける際、治療開始時の妻の年齢が40歳以上43歳未満の場合に通算3回までになった
・年間助成回数は、初めて助成を受けるかつ初回治療が40歳未満であるときは6回(40歳以上であるときは通算3回)までになった
知っておきたい不妊治療の現状 | リクルート運営の【保険チャンネル】
- 一般不妊治療は保険適用です。
- それ以外は保険適用外ですが、「体外受精」と「顕微授精」 は国から助成金がもらえる場合があります。
- 助成金には所得制限、年齢による回数制限があります。
- 自治体によっては、国とは別に補助金制度があるところもあります。
参考:体外受精の補助金を受け取るには年収に制限がある? | 不妊治療や体外受精の疑問に答えるwebマガジン|ウィルモ
<追記ここまで>
最後にもう一度内容をまとめておきます。
出生率低下の要因まとめ
日本では夫婦以外からの子供の割合が低いので、
「夫婦からの出生率低下」について、
以下の3つの原因を見てきました。
1. 結婚率の低下
女性の生涯未婚率は、
平成2年に5%程度、平成22年に10.6%と、
この20年で倍近くになっています。
独身にとどまっている理由は、
25歳までは「まだ早い」、
25歳からは「いい相手がいない」、
という理由が目立ちます。
2. 晩婚化による出生率低下
平均出生子ども数は、
妻の結婚年齢が30歳未満の場合1.9〜2.0程度
30〜34歳の場合は1.5、
35〜39歳の場合は1.16
と、年齢と共に大きく下がります。
そして、女性の初婚年齢は上昇しており、
平成24年の女性の平均初婚年齢は29.2歳です。
3. 夫婦の出産数の低下
・結婚している夫婦は、平均2人子どもを作っている
・しかし、30年間変わっていなかった出生児数≒2.2が、
2005年から減り始めて、2010年には1.96となりました。
「理想の人数の子どもを作れない理由」
のトップは「お金がかかるから」が60%以上で圧倒的。
二番目の理由が「高年齢で生むのはいやだから」で約35%。
「予定子ども人数」が0〜1人である理由は、
「欲しいのにできないから」がトップ。
つまり、夫婦の出産数の低下には、
「お金がかかる」という経済的な理由、
「欲しいのにできない」という医学的な理由
があります。
少子化対策のまとめ
- 女性が経済力をつける
- 女性が働く場合の育児体制のサポート
- 残業前提の働き方や男性の育児参加についての意識改革
- 結婚に意欲がある男女のマッチング機会の創出
- 家族関係の財政支出の向上
- 不妊治療の保険適用、あるいは助成金の設立
よく聞く対策ではありますが、
前提となる状況が理解できると、
意味も深くわかるようになったのではないかと思います。
おしまい
<追記>
厚生労働省の2011年の人口動態統計によると、
初産は30歳超、初婚年齢も上昇...晩婚晩産進むとのこと・・・
<参考にしたデータなど>
- 平成26年我が国の人口動態(政府統計)(PDF)
-
第14回出生動向基本調査/国立社会保障・人口問題研究所
データだけではなく、アンケートなどで
理由を調査しているのが、こちらの調査結果。
→「結婚と出産に関する全国調査」(2006) - 平成 25 年版 厚生労働白書
- 平成24年厚生労働白書