夜に街を歩いていると、見知らぬ人が声をかけてきた。
「おにいさん、安いよ安いよ!」
と。
日本語として意味を解釈すると、「安い」の主語は「おにいさん」、
つまりこの場合は私のことであると予想される。
つまりこの見知らぬ人は、私のことを良く知りもしないくせに、
「あなたは価格が安いですよ」
親切にもこう指摘してくださったわけである!
なぜ私が、いきなり市場価格が低いことを指摘されなければならないのだろうか。 そもそも何市場だというのだろうかその市場は!?(倒置法)
と一人屈辱にうち震えていると、その見知らぬ人は他の人に対しても
「安いよ安いよ!」
こう呼びかけ続けている。
私は合点した。
彼はアイデンティティーの不安に悩んでいるのだ、と。
つまり、他の人間の市場価格が低いと決めつけることで、
相対的に自分の価値を高めようとしているのだ。
これはアイデンティティー補償行為だったのだーーー
そして私のアイデンティティーは、
あなたの価値を鑑定します
で聖人のような選択肢を選び
ハルさんの価値は6134万1552円です(階級は「落語家真打級」です)
という数字を得ることで補償されたのだった。
アタシはそんなに安くないのよー!