ちょっといい話を書いてみる。
駅のホームに、子供をだっこした母親が立っていた。 彼女は体重を片足から片足へと周期的に移し変え、 子供に加速度を与えるリズムによって、 子供の安心感を誘っていた。
そのとき、ホームから電車が発車した。
子供は徐々に速度を増していく電車に向かって、手を振っている。
ちなみに無表情だ。
しかし、電車の中の人たちは手を振り返してはくれない。 電車の中の人たちにしても、ホームに手を振っている子供がいる、 と気付いた瞬間通り過ぎてしまっているのだろう。
世の中は冷たいんだ。 ぼくが手を振っても、手を振り返してはくれないんだ。 この経験がそのように子供の心に刻み込まれると思うと、心が痛んだ。 私は子供の背中側に立っていたのだが、 ここは一つ、私が子供の右サイドから手を振りつつ左サイドに走り抜けるか・・・
果たしてシラフの自分にそんなことが可能だろうか、そう思った瞬間だった。
手を振ってくれている人がいる!
それは車掌さんだった。 当然彼は前方のホームを見ていたのだろう、 手を振っている子供に気付いていたのだ。
問題:
この後の締めの一文にふさわしいものを選びなさい。
1)私には彼がはめていた白い手袋が、とてもまぶしく見えたのだった。
2)私は、これで恥ずかしいマネをしなくて済む、と胸をなで下ろしたのだった。
3)私は、大人になったら忘れてるんだろうな、と台なしなことを考えたのだった。