私は電車に乗り込んだ。
左奥側の右から3番目の席が空いている。
列の先頭に並んでいた私は躊躇なく左サイドに向かう。
その時左から影が現れ、それは流れるようにその席に高速移動した。
「ずどむ」
イヤな音をたててシートに臀部をめり込ませつつ、影は実体化した。
それは席を奪ったことに対する満足げな笑みを浮かべていた。
私はあわてず目標を第二候補の左サイド手前右から3番目の席に変更し、
席をゲットした。しかしそれは休息にはならなかった。
しかし、それは休息にはならなかった。
右に座っている人は「催眠による人格転換」という本をじっくりと読んでいるおぢさま。 あなたは誰の人格を催眠によって転換しようとしているのですか?
左に座っている人は口紅のカタログをじっくりと眺めているおにぃさま。 口紅を選んでいるのはもちろんプレゼントのためですよね?
私は気配を殺しながらひっそりと時を過ごしたのだった。