Part 4 グリーン電力制度

エネルギー問題 Part 4


ここまで、エネルギー問題とそれを解決する技術について説明してきました。ではこの問題について私達には何ができるのでしょうか?

ここからは、その答えのカギとなるグリーン電気料金制度と、この制度を通して私達に何ができるのかを考えていきます。

4.1 押し寄せる電力自由化の波

95年12月に、電気事業法が改正されました。 これは、今まで電力会社が完全に独占してきた電気市場に市場原理を導入し、 世界一高い(日本の電気料金は欧米諸国より2〜3割高い)と言われる日本の電気料金を引き下げることが狙いです。

改正点は、大きくまとめると次のようになります。

  1. 電力会社以外の企業が電力会社に電気を売ることができるようになった(卸電力自由化)
  2. 電力会社以外の企業が特別地域に直接電気を供給、販売できるようになった(特定電気事業の自由化)
  3. 企業が自家発電した電気を、電力会社の送電網を使って
    別の事業所に送る
    ことができるようになった(自己託送制度の自由化)
  4. 競争原理の導入、経営効率化により電気料金値下げが図られた(電気料金制度改正)

このことは何を意味するのでしょうか。

電力事業は、電気を起こす「発電部門」、発電所で起こした電気を送 電線を使って電力を各地へ送る「送電部門」、 その電力を最終的に家庭や企業に届ける「配電部門」に分けられます。 今まではこの三つのすべてを電力会社が独占してきました。

しかし改正により、誰でも発電し、その電気を販売できるようになりました。 実際、96年度に初めて実施された電力会社6社による卸電力募集(電力会社が電力を募集して、安いものを買うもの)では、 265万5000kWの募集枠に対し4倍の1081万5000kWが。 翌97年の募集では285万5000kWに対し、5倍の1425万4000kWの応募がありました。 さらに重要なのは、応募した企業の入札価格が電力会社の価格より2〜3割も安くかったということです。 例えば東京電力に応募、落札したゼネラル石油の電力価格は、東京電力の売り値19.28円の40%以下の6円台後半だったのです(*9)。

これまで電力会社は発電、送電、配電の総コストしか公表してきませんでした。 しかし卸電力自由化によりそのコストが明らかになり、その費用が適正なものか問われることになっていくのです。

また97年には、電力会社による地域独占の撤廃と電力小売供給の自由化に向かうことが決定されました。 2000年3月より大口の需要家むけの小売を解禁、2003年に見直した後に、一般家庭向けを含めた完全に自由化を目指しています。

4.2 電力自由化がもたらすこと

電力自由化は、競争原理の導入により電力会社に根本的な改革を迫ります。 このことはいくつかの大きな影響をもたらすでしょう。 まず、電力市場の透明化をもたらすことにより、電力会社は今までのように独占に頼った不透明な価格設定はできなくなります。 その結果安価な電力の供給がなされることになるでしょう。 またコスト競争がなされることにより、コスト高の原発の新設が不可能になり、脱原発に向かうことになるでしょう。

しかし、電力自由化がいいことばかりとは言えません。 安い電力が供給されれば、その分電力消費の増加が予想されます。 これは明らかに省エネルギーという流れに逆行してしまいます。 また安さだけを求める結果、大型の石炭火力発電など安価なものの環境へ与える影響が大きい化石燃料だけが落札されているのです。 これでは、まだコストの高い太陽光発電などのクリーンエネルギーの発展がさまたげられる恐れがあります。 経済性だけではなく、環境に与える影響も考慮していくことが必要なのです。

エネルギー問題の解決に重要な役割を果たす電力の自由化が新規参入企業と電力会社のかけひきになってしまうのは好ましくありません。 その目的は持続可能な社会を目指すことであるべきです。

この動きを正しい方向に導くために私達ができることはなんでしょうか。 その一つの答えとなりうるのがグリーン電力制度です。

4.3 グリーン電力制度の実現に向けて

グリーン電力制度とは月々の電気料金に加えて小額のグリーンファンド(北海道グリーンファンドでは電気料金の5%)を支払い、 その分を自然エネルギー普及のための基金にするというものである。 たまったグリーンファンドにより自然エネルギー発電所づくりに運用、 売電事業に参加するのです(このことに電力自由化により可能になったのは言うまでもありません)。 もしその5%分を節電でまかなえば、環境への負担低減とクリーンエネルギーの普及の両方に貢献することにもなるのです。

欧米では既にグリーン電力制度が導入されており、上にあげたものの外にも電源選択型のグリーン電力制度があります。 これは、例えば原始力発電による電気と風力発電による電気から、好きな電気を選んで購入できる、というものです。 この制度が、日本でも2003年の電力自由化の見直しで採用されれば、日本のエネルギー状況に非常に大きな影響を与えることになるでしょう。

電力市場は私達生活者が料金を払うことにより成立しています。 私達の選択は電力市場に対して大きな影響力を持っているのです。 ですから、「グリーンファンド事業は電力需要の削減と自然エネルギーの普及という差し迫った地球規模の課題を、 意志ある市民が個人レベルで同時に解決できる、一石二鳥のシステム」(*10)といえるのです。 私達一般生活者にも可能であり、しかも企業中心の電力自由化の流れや原子力中心の日本のエネルギー政策にも大きな影響を与えることができる制度なのです。

4.4 終わりに

エネルギー問題について、私達一般の生活者ができることはなんでしょうか。
まず一つは、節電に気を付けることです。これはそれほどなにも難しいことではありません。 使わない電気機器のコンセントを抜いたり、人がいないところの電気を消したり。 この程度のことでも10%近く電気の消費を減らすことができます。
(わが家の環境武装計画にはさらに多くの身近な環境対策の試み紹介されています)

そしてもう一つが、「選ぶこと」ぐらいでしょう。
しかしまた、その私達の「選ぶこと」の積み重ねで社会は動いているのです。
エネルギー問題に関しても、電力を「選ぶこと」ができれば未来を大きく変えることができるのです。
このグリーン電力制度(特に選択型)と、それに対する私達の「選択」こそが 未来を決定することになるはずです。

正しい選択肢を「選ぶ」には、知識が必要です。
少しでもその助けになれば幸いです。

Part 5 原子力問題について(1)



参考文献
北海道グリーンファンド監修『グリーン電力』1999,コモンズ
赤池学『温もりの選択』1998,TBSブリタニカ
赤池学『ものづくりの方舟』1999,講談社

(*1)北海道グリーンファンド監修『グリーン電力』1999,コモンズ,p20
(*2)同上,p57〜p58
(*3)同上,p59〜p60
(*4)原子力資料情報室編『原子力市民年鑑99』1999,七つ森書館
(*5)北海道グリーンファンド監修『グリーン電力』1999,コモンズ,p63
(*6)同上,p70〜p71
(*7)同上,p48
(*8)同上,p119
(*9)同上,p137〜p139
(*10)同上,p8

参考サイト
燃料電池開発情報センターホームページ
JGA/天然ガスで発電する燃料電池について
世界のエネルギー・環境問題入門
NEF 新エネルギー財団
『太陽電池は地球を救う』