「君の名は。」を深読みする
残った謎
「君の名は。」が感動を生む理由について考えたことを、
前回の記事で、お腹いっぱいになるまでたっぷり語った。
→「君の名は。」はなぜ人を感動させるのか? - うむらうす
が、いくつか腑に落ちない点があったので、
小説を読んだり、何回も映画を見返したりして考えた。
そのうち、主に他のサイトであまり触れられていない点について、
書いておきたい。
主に、
- 映画を観て、もっと深く知りたくなった人
- 映画を何回か観た人
- これから二回目を観ようという人
向けですが、そうでない方でも、
何かの参考になれば幸いです。
内容
- 三葉と瀧の入れ替わりは、同じ日には起きていない?
- 御神体からの帰り道、入れ替わりが強制終了した後はどうなった?
三葉と瀧の入れ替わりは、同じ日には起きていない?
これは、映画を何回か観て感じた違和感だった。
瀧が初めて三葉の体に入れ替わったのが、仮に9月X日とする。
「夢の中で入れ替わってる」と言うから、私は
9月2日は互いに入れ替わり、つまり
瀧は三葉に入り、三葉は瀧に入った
んだろうな、と思っていた。
三葉が自分のノートに「お前は誰だ?」と
見慣れぬ筆跡で書かれているのを見たのは、
入れ替わりの翌日だから9月3日。
とすると、瀧の体に入れ替わった三葉が、
手のひらに「みつは」と書いたとき、
ノートの「お前は誰だ?」はまだ見てなかったのでは?
と思った。
ちょっとややこしいので、表にする。
緑の数字は、ストーリー進行の順番。
日付 | 三葉の体の中の人 | 瀧の体の中の人 | |
---|---|---|---|
9月1日 | 三葉 | 瀧 | |
2日 | 1 瀧 | 4 三葉 瀧の手のひらに 「みつは」と書く。 ノートまだ見てない? |
←お互いの入れ替わり初日 |
3日 | 2 三葉 ノートに書かれた 「お前は誰だ?」を発見 |
瀧 | |
3日の夜 | 3 三葉 「イケメン男子に してくださーい!」 |
瀧 | |
5日 | 瀧 | 三葉 | ←次の入れ替わり |
こんな感じの、違和感を感じたのだ。
ただ、シーン進行が1→2→3→4 であるおかげで、
観客は、2の時点で「お前は誰だ」は見ているので、
4で思い出すことに違和感は生じにくいだろう。
はて、どういうことだろうか。
もう一度、映画でのシーンの進行を確認してみる。
- (1)9月2日
瀧が三葉の体に初めて入り - (2)翌日3日
三葉がノートに見慣れぬ筆跡の「お前は誰だ?」を発見 - (3)3日の夜
豊穣祭で口噛み酒をクラスメートに見られ、
「東京のイケメン男子にしてくださーーい!」
と叫んだ。
- (4)その翌日以降、
三葉が瀧への入れ替わりを初めて体験。
これは三葉の時間では、4日以降なはず(確か5日)
つまり、
瀧が三葉に入ったのは、9月2日。
三葉が瀧に入ったのは、9月5日。
ということは・・・こんな感じ?
日付 | 三葉の体の中の人 | 瀧の体の中の人 | |
---|---|---|---|
9月1日 | 三葉 | 瀧 | |
2日 | 1 瀧 | 瀧 | ←瀧初の入れ替わり |
3日 | 2 三葉 ノートに書かれた 「お前は誰だ?」を発見 |
瀧 | |
3日の夜 | 3 三葉 「イケメン男子に してくださーい!」 |
瀧 | |
5日 | 三葉 | 4 三葉 瀧の手のひらに 「みつは」と書く。 ノートは既に見た! |
←三葉初の入れ替わり |
それ以降 | 瀧 | 三葉 | ←入れ替わり 同時じゃないこともある |
あれ?・・・そうなの?
入れ替わりって、お互いが同時に入れ替わるんじゃないの?
なんか同時に入れ替わらないと、
一人が、瀧の体と三葉の体、両方に入らないといけなくなり、
複数の義体を同時に扱う少佐のようなスペックが必要になる
ような気がしていた(©攻殻機動隊)。
しかし冷静に考えると、そもそも3年ずれてるのだから、
上の表の2日も、5日も、
「完全に同じ日に両方に入ってる」わけではない。
だから、いいのかな。
三葉も瀧も、
「記憶に一日空白があると、そのときは相手が入ってる」
とだけ理解している風であり、
入れ替わる先の日付は、入れ替わる元の日付の
次の日だとは限らないのかもしれない。
<結論>
- 入れ替わりは、同時に起きるわけではない
- だから、入れ替わる先の日付が、入れ替わる元の日付の
次の日だとは限らない
御神体へ向かう日、三葉に入った瀧が
「なんで制服着てるの?」と言われるのは、
このことを示しているのかもしれない。
書いてみたら理解できた。スッキリ。
と思ったら、公式パンフレットvol2で、
答えがしっかり説明されていた。
- 入れ替わりは同時に起きる!(3年ずれて)
矛盾するように思えるが、
説明を読むとそういうことか、と思えた。
なぜそうなるのかは、読んでみてください。
御神体からの帰り道、入れ替わりが強制終了した後はどうなったの?
実は、上のことが問題になるシーンが、もう一つある。
それは、三葉に入った瀧が、御神体へ口噛み酒の奉納を
終えた後の帰り道のシーンだ。
一葉に、「あんた今、夢を見とるなぁ?」と言われた瀧は、
初めて「眠る」以外のトリガーで、入れ替わりが解ける。
次のシーンは、奥寺先輩とのデートの日に目が覚め(10:15)、
自分の涙に気付くシーン。(涙の理由は、次の項目で)
ここで気になるのが、
「あんた今、夢を見とるなぁ?」と言われた後の三葉の体は、
どうなったの?ということだ。
一葉と四葉が、あの山道の途中から三葉を運び下ろすのは
無理だろうから、自然な解釈は「三葉が中に戻って帰った」
というものだろう。
この場合も、「入れ替わりは同じ日に起きている」とすると、
三葉が、瀧の体と三葉の体、両方に入らないといけなくなり、
なんかおかしくなると思った。
でも、3年ずれてるし、日付もずれてOKと考えれば、
お休みしていた三葉に急な呼び出しがかかっただけで、
特に問題はなさそうだ。
ということで、このことも、
「入れ替わりは別の日でもOK仮説」を
裏付けるものとなった、ような気がする。
ここに関しては、公式パンフを読んでもすっきりしない。
入れ替わりが同時に起きるのだとしたら、
瀧と三葉は同時に突然元に戻ったのだろうか?
三葉は、東京行きの朝、なぜ泣いていた?
「あれ?私・・・なんで?」
(みたいなセリフだったと思う)
このシーンの涙の理由だが、
「瀧のことが好きになり始めているから、
瀧が奥寺先輩とのデートするのがイヤ」
という解釈が多いようだ。
それはそれでステキな解釈なのだが、
付け加えて別の可能性を提示してみたい。
それは、
「もう入れ替わりが起こらない、
つまり瀧との別れを予感しているから」
というもの。
避難をしないケースでは、
もう入れ替わりは起こらないため、
このままでは、もう瀧と会う機会は永遠に失われてしまう。
意識はしていないが、
そんな予感に、いてもたってもいられなくなり、
東京に瀧に会いに行った...
のではなかろうか。
こう思うのは、理由がある。
それは、この日(瀧にとってはデートの日)の朝、
目覚めた瀧も、同じように泣いていたのだ。
このシーンは、瀧が三葉に入れ替わり、
一葉と四葉と御神体へ向かい、口噛み酒を奉納してからの帰り、
一葉に「あんた今、夢を見とるなぁ?」と言われた直後。
これが涙の理由とは思えず、瀧自身も涙の理由はわかっていない。
この二人の涙、私には同じものに思える。もっと言えば、
大人になってからの二人が、
起きたときに流している涙と同じ理由、つまり、大きな喪失
を予感したからなのではなかろうか。
ということで、映画を何回か観た人、
あるいはこれから二回目を観ようというような人向けに、
あまり他で書かれているのを見ない点について書いてみた。
他にも、
「三葉に他人が入っていると気付いたのが、
祖母と父だけだったのはなぜ?」
とかも書こうと思ったのだが、
これは他の方が書いているので、いいやと。
まぁざっくり書くと、その二人が入れ替わり経験者だからかなと。
祖母は自分で言っているし、父についての根拠はこちら。
好きな作品について調べるのって、楽しい。
本当に、すばらしい作品をありがとうございます。
観てから何週間経っても、まだ満喫しております。
皆さんが感動したシーン、好きなシーンなど、
web拍手のコメントから教えてもらえるとうれしいです。
↓
もっと深く考えたい人へ
理解を深めるために(参考にした資料など)
小説
100万部突破。
第三者的な視点で描かれる映画とは異なり、
三葉と瀧の視点から、それぞれの内面も語られている。
映画では、表情しかわからなかった彼らの内面が、
ああ、そういうことかとわかったり。
例えば、一度目の御神体からの帰り道、
三葉に入った瀧が、おばあちゃんに
「あんた今、夢を見とるなぁ?」と言われたとき、
瀧が何を考えていたのか、など。
理解を深めたい人には、オススメ。
Another Side(外伝的な小説)
このAnother Sideでは、
映画では詳しく描かれなかった、
三葉(瀧)のバスケ、バス停横のカフェづくり、
テッシーが三葉に協力的な理由、
町長説得(2回目)が成功した理由などがわかる。
特に、映画ではほとんど描かれなかった、
町長の内面が描かれていたのが、非常に良かった。
理解を深めたい人は、こちらもぜひ。
その他資料
新海監督や、安藤作画監督、キャラクターデザインの田中氏、音楽のRADWIMPSのメンバーなど、
製作スタッフのインタビューも掲載されている。
ストーリーに沿った、映画のシーンも掲載されているので、
映画を見た気分が蘇るところもうれしい。
設定資料などもあり。
こちらも、インタビュー記事が掲載されている他、
新海監督の過去の作品についても紹介されている。
結局私は「ほしのこえ」「秒速5センチメートル」
「言の葉の庭」も見るに至った。
「君の名は。」は、過去の作品の要素も
多く散りばめられているので、
興味を持った方は、どうぞ。
さすがユリイカ、ものすごく深読みしている人たちの論評が読める。
なるほどなぁ、という視点がいくつも得られた。
個人的には、木村朗子さん、藤津亮太さんの論評が、興味深かった。
一通りの情報を読み終えたら、最後にたどり着くところはコレ、という感じ。
と思ったが、12月発売だけあって、
こちらももう一つの終着点。
小ネタや裏設定がいろいろ明らかに。
参考にしたサイト
- 『君の名は。』大ヒットの理由を新海誠監督が自ら読み解く(上) 新海誠・映画『君の名は。』監督インタビュー|『週刊ダイヤモンド』特別レポート|ダイヤモンド・オンライン
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